高血圧は喫煙と並んで日本人にとって最大の生活習慣病リスクです。高血圧の最大の原因は食塩の取り過ぎです。若年・中年の男性では、肥満が原因の高血圧も増えています。減塩した食事、肥満を改善する食事・運動療法が重要です。
高血圧とは
出典:厚生労働省
高血圧は、喫煙と並んで、日本人の生活習慣病死亡に最も大きく影響する要因です。
もし高血圧が完全に予防できれば、年間10万人以上の人が死なないと推計されています。
厚生省の調査では、人口の4人に1人が高血圧であり、まさに国民病の1つです。
高血圧には本態性高血圧と二次性高血圧とがあります。
本態性高血圧は、食塩の過剰摂取、肥満、飲酒、運動不足、ストレスや、遺伝的体質などが組み合わさって起こると考えられています。
なかでも、日本人にとって重要なのは、食塩の過剰摂取です。日本人の大部分の高血圧は本態性高血圧です。
二次性高血圧は、甲状腺や副腎などの病気があり、それが原因で高血圧を起こすものをいいます。睡眠時無呼吸症候群でも二次性高血圧を合併します。
血圧と循環器病のリスク
- 正常高値血圧:約1.5〜2倍
- 1度高血圧:約3倍
- Ⅲ度高血圧:約5倍以上
高血圧の状態を改善すると合併症や死亡率が下がると報告されています。
合併症とは、心臓の肥大(左室肥大)・たんぱく尿・脳卒中・心不全・狭心症・心筋梗塞 ・腎不全・大動脈瘤・動脈閉塞症のことです。
高血圧の予防と治療
減塩のコツ
高血圧症の予防は、食塩の制限です。食塩摂取の目標は、「健康日本21」の目標値では8g未満、「日本人の食事摂取基準(2020年版)」の目標量では、成人男性で7.5g未満、成人女性で6.5g未満とされています。
また、日本高血圧学会は、高血圧患者における減塩目標を1日6g未満にすることを強く推奨しています。
全体的に薄味にし、かけしょうゆ、かけソースをつけしょうゆ、つけソースに改めるだけでも食塩摂取量が少なくなります。
ポイント
- かけ醤油→つけ醤油
- かけソース→つけ醤油
また、漬け物をたくさん食べる習慣のある人や、味噌汁を1日に2杯以上のむ人は、1回の量を減らすことが大切です。
ラーメンなど麺類の汁を全部飲んでしまうと、それだけで6g近い食塩をとってしまいます。
ポイント
- ラーメンの汁は残す
減塩に有効な食行動の例:減塩のコツ
出典:日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会
食事のとり方
- 野菜や果物を積極的に食べる
野菜や果物には血圧を下げる働きのあるカリウムという栄養素が多く含まれているので、食べるよう心がけましょう。
- 腹八分を意識し、体重をコントロールする
肥満になると血圧は高くなります。常に腹八分を心がけて食べるようにしましょう。また、少なくとも週1回以上は体重を確認するようにしましょう。
- 適度な飲酒量とする
過度の飲酒は、高血圧の原因となります。適度な飲酒量は1日当たり日本酒1合程度と考えられ、週1日以上の休肝日が必要です。もちろん、飲酒習慣の無い方は飲酒する必要はありません。
運動、リハビリテーション
生活習慣病の治療は食事療法と運動療法が重要、これは間違いではありませんが、運動のやり方を間違えると血圧に対して逆効果になります。血圧を下げる運動のやり方を解説します。
ふつうに運動すれば血圧はかえって上昇する
ポイント
高血圧の人が気を付けることは運動により血圧を上昇させないということです。
しかし、普通に運動すると
運動の生理的反応は、運動により心肺機能に負荷がかかり血圧・脈は上昇します。
高血圧の方は、血圧が上がると危険なのに、普通に運動して血圧を高くしていることが間違いです。
高血圧の方に普段と同じように運動していただくと、運動中・運動後に血圧が上昇していることが分かります。
特に真面目で運動習慣がある方が多いと感じます。
そのような方は、病気の知識もあり意欲的なんですが、運動は「きついくらい」「一生懸命に努力して」、汗をびっしょりかきながら、ちょっと息苦しくなるくらいに、と間違った思い込みをしています。
このやり方では、運動により心肺機能に負荷がかかり血圧が上昇します。
高血圧の方は、血圧を下げるために運動するのに逆効果になってしまいます。
血圧が上がらない運動のポイント3
ポイント
- 心肺機能に負荷をかけない、低負荷・低強度の運動を行うこと
- 運動前、運動中、運動後に血圧測定し血圧上昇していないかチェックすること
- 運動中も呼吸に意識して、リラックスして行うこと
低負荷・低強度の運動を
低負荷・低強度の運動のやり方は、3種類の方法があります。
- 計算により目標脈拍数を設定する方法
- 自覚症状で運動強度を設定する方法
- 目標脈拍数と自覚症状の両方で運動強度を設定する方法
お手軽な方法は2の方法ですが、安全なのは3の方法です。
計算により目標脈拍数を設定する方法は、karvonenの式を使います。
Kは0.5以下が低負荷・低強度の運動として最適です。
(予測最大心拍数ー安静時の心拍数)✖️K + 安静時心拍数
※予測最大心拍数=220-年齢で求められます。
※年齢51歳、脈・心拍数60の人の場合は心拍数110以下になります。
220-60=160
(160-60)✖️K(0.5) + 60 =110
自覚症状で運動強度を設定する方法は、自覚的運動強度(Borgスケール)を使います。
Borgスケールは自覚的運動強度の目安としてとても有名なスケールです。
数字は10倍すると脈・心拍数に近い数値になると言われています。
参考にするのは、数字ではなく自覚症状です。
先ほど登場した例)年齢51歳の人はkarvonenの式では心拍数110以下でしたが、Borgスケールでは「楽である」以下になります。
Borgスケールの11(楽である)以下が低負荷・低強度の運動として最適です。
目標脈拍数と自覚症状の両方で運動強度を設定する方法は、表を使います。
こちらの表の優れているところは、自覚症状と年齢別脈拍数の両方で確認できるところです。
強度50%以下が、低負荷・低強度の運動として最適です。
表の使い方
強度50%の行を見ます、「強度の感じ方:楽である」、脈拍数は60歳代110です。
運動する際は、楽と感じる・脈拍数110以下で行います。
自覚的運動強度と脈拍数からみた強度
ウォーキングのやり方
散歩・ウォーキングの進め方は次のように行います。
- 運動する前に血圧を測ります。
- 運動中も血圧が上がらないように、リラックスして深い呼吸で運動します。絶対に呼吸を止めた運動はダメです。
- 運動中に血圧を測り、血圧が上昇していないか確認します。
- 運動後も速やかに血圧を測定します。リラックスして深呼吸することで血圧が下がります。
病院でのリハビリ風景
普段ウオーキングしている人に、ゆっくり歩いてくださいと説明しても、意外に難しいことだと気付きます。
理由
- 運動は一生懸命行わないと効果がない、軽い運動はやっても効果がないと思い込んでいる。
- 普段のペースが早すぎて、本人にとってはゆっくりがゆっくりになっていない。
ということが理由にあります。
指導
- 低負荷・低強度の運動の効果をじっくり説明します。
- 実際に、血圧を運動前・運動中に測定して血圧が上がっている場合は「もっとゆっくり」「もっとリラックス」して「楽で、ものたりと感じる」程度で歩いてと説明します。
それでも、血圧が上がっているときは、「ウィンドウショッピング」「景色見ながら散歩している感じで」と言い換えて説明します。
だいたい4.5回繰り返すと血圧が下がるペースを発見することができます。入院中に数日歩き方の練習をすると低負荷・低強度の運動が身に付きます。
数週間後に外来でお会いしたときに高血圧が改善したと聞き嬉しく感じます。
高血圧の運動は、がんばらないリラックスして低負荷・低強度の運動を意識してください。
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