わが国の糖尿病患者数は、生活習慣と社会環境の変化に伴って急速に増加し、今後も社会の高齢化にしたがって増大するものと考えられる。糖尿病はひとたび発症すると治癒することはなく、放置すると網膜症・腎症・神経障害などの合併症を引き起こし、末期には失明したり透析治療が必要となることがある。
厚生労働省は、「健康づくりのための身体活動基準2013」で身体活動量を増加することで糖尿病リスクを低減できるとした。また、2型糖尿病に対する運動療法は、血糖コントロール・合併症の改善など効果がすでに認められている。
糖尿病とは
糖尿病は、インスリンが十分に働かないために、血液中の糖(血糖)が増える病気です。
インスリンは膵臓から出るホルモンであり、血液中の糖をエネルギーに変えて、血糖を一定の範囲におさめる働きを担っています。
糖尿病の原因
インスリン分泌低下(足りない)
膵臓の機能の低下により、インスリン分泌量が少ない状態です。
糖をエネルギーに変えることができず、血液中にあふれてしまいます。
インスリン抵抗性(効かない)
インスリンは十分な分泌量が作られているが、効果を発揮できない状態です。
肥満になると、内臓脂肪からインスリンを効きづらくする物質が分泌されます。
この場合も、血液中に糖があふれてしまいます。
血糖値とインスリンの関係(正常)
- 食べ物を消化すると小腸で吸収されて血管の中に入ります。
- 血管の中に糖が増えると、インスリンが膵臓から分泌されて、血管の糖をエネルギーに変えます。血糖値を一定の範囲でコントロールします。
血糖値とインスリンの関係(糖尿病)
- インスリンが足りない・効かないと血糖値が上昇する。
- 高血糖状態になると、血管の中から活性酵素が大量に発生する。
- 活性酵素が血管を破壊する。
- 糖をエネルギーに変えられないため、酸素と栄養素が届かなくなり、自覚症状が出る。
- 血管の破壊が進行すると合併症が発生する。
糖尿病の病型は
糖尿病の病型は、(1)1型糖尿病(2)2型糖尿病(3)その他(4)妊娠糖尿病に大別されます。
わが国の糖尿病の大部分をしめるものは2型糖尿病であり、対策としては、発症の予防・早期発見・合併症の予防が重要です。
1型糖尿病
1型糖尿病では、膵臓からインスリンがほとんど出なくなる(インスリン分泌低下)ことにより血糖値が高くなります。生きていくために、注射でインスリンを補う治療が必須となります。この状態を、インスリン依存状態といいます
2型糖尿病
2型糖尿病は、インスリンが出にくくなったり(インスリン分泌低下)、インスリンが効きにくくなったり(インスリン抵抗性)することによって血糖値が高くなります。
2型糖尿病となる原因は、遺伝的な影響に加えて、食べ過ぎ、運動不足、肥満などの環境的な影響があるといわれています。
生活習慣改善による予防対策
糖尿病の発症危険因子は
- 加齢
- 家族歴
- 肥満
- 身体的活動の低下(運動不足)
- 耐糖能異常(血糖値の上昇)
これ以外にも高血圧や高脂血症も独立した危険因子であるとされています。
予防対策となるのは
変更可能な危険因子としては、
- 肥満
- 食事(摂取カロリーとその内容)
- 運動量の不足
生活習慣病の予防対策としては「肥満の回避」、「身体的活動の増加」、「適正な食事」が合理的です。
また、これらの対策は生活習慣病としての高血圧、高脂血症への予防対策としても有効であり、また、脳卒中・冠動脈疾患などの心血管疾患の予防対策となりうる。
糖尿病危険因子の回避 成人の肥満者(BMI≧25.0)の減少 目標値:20~60歳代男性15%以下、40~60歳代女性20%以下 基準値:20~60歳代男性24.3%、40~60歳代女性25.2%
日常生活における歩数の増加 目標値:男性9,200 歩、女性8,300 歩 基準値:男性8,202歩、女性7,282歩
※ 1日あたり平均歩数で1,000歩、歩く時間で10分、歩行距離で600~700m程度の増加
リハビリテーション(運動療法)
運動療法の効果
糖尿病の予防対策:運動療法は、食事療法と並んで糖尿病治療の基本です。
糖尿病の改善:運動療法は、食事療法・薬物療法と並んで糖尿病治療の基本です。
1型糖尿病
インスリンをつくりだす細胞が壊れてしまっているため、運動によるインスリンの機能自体の回復は望めません。
運動は筋力を高めたり、ストレス解消にも役立ちます。
特に子どもの場合は心身の健全な発達を助ける手段にもなります。
1型糖尿病も2型糖尿病と同様に、運動することで外から補給しているインスリンの働きを高めることができるので、毎日運動することは大切です。
2型糖尿病
2型糖尿病の原因は、肥満、過食、運動不足の場合が多いです。
運動によりエネルギーを消費して、肥満を解消 ・抑制します。
さらに運動を毎日続けていると筋肉の活動量が上がることで、悪かったインスリンの働きも改善します。
さらに食後1時間頃に運動をすると、ブドウ糖や脂肪酸の利用が促されて血糖値が下がるという効果もあります。
医学的にまとめると8つの効果
- 運動によって、血液中のブドウ糖が筋肉にとり込まれやすくなり、ブドウ糖、脂肪酸の利用が促進され、血糖値が下がります
- 2型糖尿病では、低下しているインスリンの働きが高まります
- エネルギーの摂取と消費のバランスが改善し、減量効果 ・肥満の防止になります
- 高血圧や脂質異常症(高脂血症)の改善に役立ちます
- 加齢や運動不足による筋肉のおとろえや萎縮、さらには骨粗鬆症の予防に有効です
- 関節や骨が丈夫になり、末梢血管が強くなり心臓や肺の機能が高まります
- 筋力や体力の増強に役立ちます
- 爽快感、活動気分が向上し、ストレス解消効果があります
※ 運動による消費エネルギーの計算方法は、 ⬇︎ の記事を参照ください。

運動の種類は?
運動の種類には、有酸素運動とレジスタンス運動の2つがあります。
糖尿病の患者さんには、ダンベルなどを使って筋肉に負荷をかけるレジスタンス運動より、歩行やジョギング、水泳などの全身運動にあたる有酸素運動のほうが適しています。
有酸素運動を継続して行うことで、インスリンの働きがよくなるからです。
どれくらいの運動をすればよい?
歩行運動なら、1日約1万歩、消費エネルギーに換算するとほぼ160~240kcalの消費が望ましいとされています。
歩行運動の目安は1回につき15~30分間、1日2回行います。毎日行わなくともかまいません。1週間に少なくとも3日以上の頻度での歩行運動が望ましいとされています。
歩行運動は、いつでも、どこでも、ひとりでもできますし、体力や年齢にあわせて歩き方やスピードを変えることができます。これなら、まとまった運動時間がなかなかとれない人でも、歩行をともなう通勤、通学、買い物などで、実践できます。
しかし、歩行運動を始め、間違ったやり方で運動を行うと、糖尿病を悪化させたり、心筋梗塞の発症などの思いがけない事故を引き起こすことがあります。
また、なかには運動療法の禁止あるいは制限したほうがよい人もいます。
※ 運動療法をはじめる前に、必ず医師の指導を受けましょう。
厚生労働省:個人の健康づくりのための身体活動基準(18〜64歳)
身体活動量の基準(日常生活で体を動かす量の考え方)
運動強度が3METs以上の身体活動を1週間に23METs・時行う。
具体的には、歩行又はそれと同等以上の強度の身体活動を毎日60分行う。
運動量の基準(スポーツや体力づくり運動で体を動かす量の考え方)
運動強度が3METs以上の運動を1週間に4METs・時行う。
具体的には、気が弾み、汗をかく程度の運動を毎週60分行う。
厚生労働省:個人の健康づくりのための身体活動基準(65歳以上)
身体活動
運動強度を問わず、身体活動を1週間に10METs・時行う。
具体的には、身体活動を毎日40分行う。
厚生労働省が提唱する運動については、 ⬇︎ の記事を参考にしてください。

運動療法のポイント
- 準備運動と整理運動を行いましょう
⇨無理なストレッチはおススメしません。準備運動と整理運動はメインとなる主運動より軽い運動を行えば良いです。
- 軽い運動からはじめ、少しずつ運動量を増やしましょう
⇨体力や筋力は1日や2日では増えません、1週間ぐらい同じ運動を行い余裕があれば少しずつ運動量を増やしましょう。
- その日の体調に合わせ、決して無理をしないようにしましょう
⇨体調は変わります。その日の体調に合わせて行う方が継続できます。
- 運動は継続が大事です。続けられる運動を選びましょう
⇨毎日同じメニューでも構いませんが、時には歩くコースを変える、同じコースでも歩き方・テンポを変えるなど、時々変化を入れると効果的です。
- 運動前後の血糖値や尿糖をときどき測りましょう
⇨さらに、血圧を前後や途中に測ることをおススメします。血圧の高い状態で運動していると合併症を悪化させるリスクがあります。