コロナ禍、臨床実習が中止になるケースが増えている。最近は、就職してからの教育システムがある施設が多く、すぐに患者さんを担当することは少なくなっている。しかし、その指導内容は臨床実習で指導することとは違うため、臨床実習の分の補習は必要である。「脳卒中疾患」を解説します。
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情報収集(脳卒中の特徴)
脳卒中の患者を担当し、まず行うことは情報収集です。
実施する前に絶対に確認する情報収集 ・医師情報:安静度の確認(バイタルや脳の状態に安静が必要な場合があります)、画像で麻痺や失語症など脳損傷と症状の確認 ・看護師情報:日常生活の介助度、困っていることを聴取する ・入院前の移動動作能力やADL自立度 (脳卒中患者の場合、入院前の日常生活動作能力が仮目標に設定して評価を行います) |
理学療法評価(評価年月日)
情報収集を行ったら、次は評価を行います。
評価は、3要素を満たしていることがプロの評価として重要です。3要素を意識した評価を行いましょう。
評価に必要な3要素 妥当性:目的としている検査を適確に行えることです。 再現性:同じ人が同じ検査を行った時に、結果が一致することです。 標準性:全国的に統一された検査方法で行うということです。 |
関節可動域検査

関節可動域検査を行うときに注意することは、筋緊張の影響です。
筋緊張は、姿勢や過剰な努力によっても変化します。評価するときはできるだけその様な影響を除外するためリラックスした臥位で検査を行います。
関節可動域検査を行っているときに、この制限が問題になるのか頭の中で考えながら行います。
問題となる「できない動作」が関節可動域が原因なのか判断するために行うので、臨床現場では考えながら行うことが重要です。
例えば、膝関節可動域であれば次の動作には必要な関節可動域があります。
膝関節屈曲角度 ・歩行時 : 約60度 ・椅子からの立ち上がり : 約100度 ・正座 : 約140度 |
筋力評価

重い麻痺で、筋緊張が高い・連合反応や姿勢反射の影響が大きいときは、純粋な筋力をみることができないので筋力検査は行いません。
筋力検査ができないときは、どこまで手足を動かせるかを見ます。
Brunnstrom Stage検査
この検査は、麻痺の状態(回復段階)を判断するために行います。
麻痺の回復段階に合わせた理学療法を行うため、正確に麻痺の状態を把握する必要があります。

感覚検査

感覚検査は、左右差で比較することが重要です。
麻痺側の手足をスムーズに動かせないときに、その原因が感覚によるものか確認するために行います。
スムーズな運動に影響する感覚は、どちらかというと深部感覚です。しっかり深部感覚をみましょう。
痛みの評価

どこに、どのような痛みがあるか知ることは脳の障害や麻痺の状態を理解するために、とても重要です。
特に、感覚異常(痛みが無いのに痛いと感じる、触っただけで痛いと感じる)の有無や低緊張による肩関節の亜脱臼痛の有無をしっかり確認しましょう。
痛みの検査を行うときも、なんで痛いのか?を考えながら行うことが大切です。
形態測定

形態測定は、左右差で比較します。
下肢長は脚長差を、周径は腫れの状態を確認します。
形態測定を行うときも、なんで差があるのか?この差は問題なのか?を考えながら行うことが大切です。
基本動作

情報収集で得た入院前の基本動作能力と今の能力を比較します。
どこまでできるか、できない動作でも、どこまでできるかをみましょう。
日常生活動作、


情報収集で得た入院前の日常生活動作の状態と今の能力を比較します。
どこまでできるか、できない動作でも、どこまでできるかをみましょう。
問題点の抽出
バイザーが見るポイント ・理学療法評価の各検査結果から問題点を抽出できるか? 脳卒中の特徴は、脳損傷の症状が四肢の動きに影響を起こすだけでなく、失語症など高次脳機能障害を起こすことです。その特徴を評価できているかチェックしています。 整形外科疾患での量的な評価だとイメージが湧きやすいですが、脳卒中の質的な評価はイメージを持つことが難しいと思います。分からないことを考えても理解できないと思いますので、、、 ここは、経験も必要なところですからバイザーと相談するとよいです。 |
障害レベルの分類は、「機能障害、能力障害、社会的不利」、「心身機能・ 身体構造レベル、活動レベル、参加レベル」、あるいは「一次的問題、二次的問題」 として抽出する。
治療目標の設定
目標設定は、ある程度の経験が必要です。難しいので分からないときは相談しましょう。
考え方が分かると目標設定できますが、分からないとネットで調べて分かることではないので悩まずに聞きましょう。
短期目標:2-3週後の治療目標を身体機能およびADLのレベルで挙げる。
長期目標:実習終了時の治療目標を身体機能およびADLのレベルで挙げる。
必ずしもこの期間にこだわる必要はなく、変更する場合にはその期間も記す。
治療プログラム
治療プログラムは問題点に対応させて計画する。
治療内容についてはとくに用量について明確に記載する。
(治療項目、治療時間、治療部位、治療頻度など)
リスクがあれば、それも明記しておく。
- 治療プログラム作成は難しくありません。実際に治療することは難しいです。
- 問題点に挙げた項目を治療プログラムに取り入れる。
※ 例えば、問題点で右股関節屈曲制限→治療プログラムに右股関節屈曲可動域練習
経過
実習生が担当した後の経過をまとめます。経過の中心となるのは、問題としている動作や目標としている動作です。
例)移動動作:3/5に車椅子、4/5に平行棒内歩行、5/4に杖歩行、6/4に独歩
考察
バイザーの見るポイント ・考察は統合と解釈について説明するところです。 ・統合とは、評価から抽出された複数の問題から、1つの目標にまとまることです。 ・解釈とは、一つの問題を分解して原因を導き出すことです。 ・例えば歩行困難という問題に対して(関節可動域○、麻痺✖︎、感覚○、形態測定○、痛み○)なので歩行困難なのは麻痺が原因→麻痺に対してのアプローチを行う。 ・目標設定から問題点の抽出、治療プログラム作成までの論理的な説明を他人に説明できるようになることを指導ポイントとしています。働いてからはとても大切なスキルです。 ・自分の行っていることを患者や家族、医師や他部門の人に論理的に説明できるようになるために頑張りましょう。 |
病態像を明確にとらえることや実習生が抽出した問題点、治療目標、さらに治 療プログラムに対して、何故それらを取り上げたのか、その根拠や病態の変化、 治療効果などについて十分に考察するようになれれば合格です。
また、教科書による一般的な病態と患者の病態像を比較し検討できれば、さらに良いです。
患者の身体機能の予後予測は、経験が必要で簡単ではありません。バイザーに相談しましょう。